御社の「最新決算」、AIは1つ前の数字で答えているかもしれない

投資家が「この会社の直近の業績は?」と AI に聞く場面が増えています。では、AI は企業の IR サイトから正しく答えられるのでしょうか。

当社は 2026年10月1日、ChatGPT・Perplexity・Gemini の3種類の AI に、ある上場企業の直近の決算を実際に質問しました。その結果、次の2点がわかりました。

  • AI は、決算短信の PDF を開いて正しく答えることができた。
  • ただし、同じ公式サイトを見ても、AI によっては1つ前の決算を「最新」として答えた。

本記事では、その検証の条件と結果を、元データとともに紹介します。

検証の対象:丸三証券(証券コード 8613)

対象には丸三証券株式会社を選びました。同社の IR サイトでは、決算情報が主に PDF(決算短信・決算説明資料)で公開されています。当社が 2026年7月に同社の IR サイトを調査した時点では、決算資料(決算短信・決算説明資料など)の一覧ページに、PDF へのリンクが 129 本掲載されていました。

検証時点(2026年10月1日)で、同社が公表している最新の決算は次のとおりです。いずれも同社の決算短信から当社が直接確認した数値です。

決算短信開示日営業収益営業利益
2027年3月期 第1四半期(最新)2026年7月30日6,251百万円(前年同期比 +43.2%)1,748百万円(同 +342.6%)
2026年3月期 本決算(1つ前)2026年4月28日21,725百万円5,375百万円

出典:丸三証券株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(非連結)」

検証の方法

各 AI に、次の2種類の質問をしました。

  • 普通の質問:「丸三証券(8613)の直近の決算の売上高(営業収益)と営業利益を教えてください。出典URLも示してください。」
  • 公式サイト限定の質問:「丸三証券(8613)の公式サイト(marusan-sec.co.jp)の情報だけを使って、直近の決算の売上高(営業収益)と営業利益を教えてください。出典URLも示してください。」

AI は各社が提供する API(プログラムから呼び出す仕組み)を通じて、Web 検索を有効にした状態で使いました。

AI使用したモデル・設定
ChatGPTgpt-5.5 + Web 検索(OpenAI API)
ChatGPT(軽量モデル)gpt-5.4-mini + Web 検索(OpenAI API)
PerplexityAgent API の設定「fast」(検索1回)と「low」(複数回の検索とページ閲覧)
Geminigemini-3.8-flash + Google 検索

結果:AI の答え方は3通りに分かれた

AI質問答えた決算主な出典判定
ChatGPT(gpt-5.5)普通2027年3月期 第1四半期丸三証券の IR ページ、第1四半期決算短信(PDF)最新・正確
ChatGPT(gpt-5.5)公式サイト限定2027年3月期 第1四半期(2回とも)丸三証券の公式サイト最新・正確
Perplexity(low)普通2027年3月期 第1四半期丸三証券のプレスリリース一覧に掲載の第1四半期決算短信最新・正確
Gemini普通2027年3月期 第1四半期Yahoo!ファイナンス、丸三証券の公式サイト最新・正確
Perplexity(fast)普通2027年3月期 第1四半期Yahoo!ファイナンス(第三者サイト)最新・正確(数値は億円単位に丸めて回答)
ChatGPT(gpt-5.4-mini)公式サイト限定2026年3月期 本決算丸三証券の 2026年3月期決算短信(PDF)数値は正しいが、1つ前の決算

答え方は、次の3通りに分かれました。

① 公式の PDF をたどって、最新の決算を答える

ChatGPT(gpt-5.5)の動きを記録した1回では、まず広く検索し、次に「2027年3月期 第1四半期 決算短信」を丸三証券のサイトに絞って再検索し、同社の決算資料の一覧ページを開いていました(検索2回・ページ閲覧2回)。また、gpt-5.5 が回答した営業収益 6,251百万円は、第1四半期決算短信の記載と一致しています。

つまり、決算情報が PDF だけで公開されていても、AI がそれを開いて正しく読み取るケースがあるということです。

② 第三者サイトから答える

Perplexity の「fast」設定(検索1回)は、Yahoo!ファイナンスを出典として答えました。数値は最新の決算と一致していましたが、出典は企業の公式サイトではありません。

普通に質問した場合、AI は必ずしも企業の IR サイトを見に行くわけではない、ということです。

③ 公式の PDF を読むが、古い決算を「最新」として答える

軽量モデルの gpt-5.4-mini に公式サイト限定の質問をしたところ、回答内容を記録した2回とも、「直近の決算は 2026年3月期決算」として、営業収益 21,725百万円・営業利益 5,375百万円と答えています。

これらの数値自体は、2026年3月期決算短信の記載と一致しており、正確です。しかし検証時点ではすでに第1四半期の決算(2026年7月30日開示)が公表されていたため、「最新」としては誤りです。

記録を見ると、この AI は1回検索しただけで、検索で見つかった 2026年3月期の決算短信 PDF を開き、それより新しい決算がないかを確かめないまま回答していました。

わかったこと:「読めるか」だけでなく「最新を選べるか」

今回の検証で同じ公式サイトを見たにもかかわらず結果が分かれたのは、サイトの違いではなく、AI の調べ方の違いによるものです。gpt-5.5 は最新の決算短信までたどり着き、gpt-5.4-mini は1つ前の決算短信で調べるのをやめました。

IR の観点からは、次のように言えます。

  • AI が PDF を読めるかどうかは、AI の性能に左右される。 丁寧に調べる AI は PDF から正しく答えたが、そうでない AI は古い資料を採用した。
  • AI が「どれが最新か」を判断できるかが、回答の正しさを分ける。 回答内容を確認できた範囲では、資料の数値を読み間違えた AI はなかった。誤りの原因は、古い資料を最新と判断したことだった。
  • 普通に質問すると、第三者サイトが出典になることがある。 投資家が AI から受け取る情報が、企業の公式発表を経由していない場合がある。

当社の指標への反映

当社のサービス「IR BASE」と「IR Intelligence」は、これまで IR サイトの HTML 本文から AI が答えられるかを評価しており、PDF の中身は評価の対象外としていました。2026年7月時点の調査では、丸三証券の決算情報は PDF での公開が中心だったため、この方式での評価は低いものでした。

しかし今回の検証では、実際の AI は PDF を開いて正しく答えています。そこで当社は、答えが PDF の中にしかない場合も「どこにもない」とは区別して評価する方式への改定を準備しています。あわせて、答えが最新の決算期のものかどうかも評価に加える予定です。

なお、当社が 2026年7月に調査した上場企業のうち、データの品質を確認できた 3,238社では、HTML 本文ベースの評価が 20点以下(100点満点)の企業が 1,594社ありました。このうち 773社(約49%)は、IR サイト上に「決算短信」の PDF へのリンクを掲載していました。決算情報を PDF で公開している企業は、少なくありません。

IR 担当者が確認できること

今回の結果から、当社は次の点を確認することをおすすめします。いずれも今回の検証で直接効果を測ったものではなく、観察された AI の動きにもとづく当社の考察です。

  1. 自社名で AI に聞いてみる。 「普通の質問」と「公式サイト限定の質問」の両方で、AI がどの資料を出典にし、どの決算期の数値を答えるかを確認する。
  2. 最新の決算資料が「最新」だとわかるようにする。 決算ページで最新期の資料を一番上に置き、決算期の名称と開示日をページのテキストとして明記する。今回、古い決算を答えた AI は、検索で見つけた資料をそのまま最新と判断していた。
  3. 主要な数値をページの本文(HTML)にも記載する。 PDF を開いて読むかどうかは AI の性能に左右されるため、本文に数値があれば、より多くの AI が読み取れると考えられる(この点は今回の検証の範囲外)。
  4. 第三者サイトに載っている自社の数値も確認する。 普通の質問では、AI が第三者サイトを出典にすることがある。

検証の限界と今後

  • 今回の検証は 1社・1種類の質問について、各 AI・各設定に1〜3回質問した結果です。AI の回答は質問のたびに変わることがあり、他の企業でも同じ結果になるとは限りません。
  • AI は API 経由で使用しました。一般の利用者が使うアプリ版とは、モデルや設定が異なる場合があります。
  • 各 AI のモデルは随時更新されるため、結果は 2026年10月1日時点のものです。

当社は今後、上場企業100社を対象に、ChatGPT・Perplexity・Gemini の3種類の AI で同様の検証を行い、当社の評価と実際の AI の回答がどの程度一致するかを確かめる予定です。結果がまとまり次第、あらためて報告します。


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