会社の強みや成長戦略はWebページで語られているのに、それを裏付ける最新の業績の数字はPDFの中にしかない。東証上場企業3,321社のIRサイトを調べると、こうした「語りと数字のずれ」を抱える企業が933社(28%)ありました。
社長メッセージ、中期経営計画、価値創造ストーリー。多くのIRサイトは「語るページ」を充実させてきました。しかしAIが投資家の質問に答えるとき、語りと数字が別々の場所にあると、両者はつながりにくくなります。
強みや戦略はWeb上に、業績の数字はPDFに
AIが投資家の質問に答えるための根拠が、IRサイトの「どこに」あるかを、25の項目で調べました。

強みや成長戦略は、6割前後の企業でWebページから読み取れました。一方、直近の売上高・利益・前期比は、Webページで読み取れた企業が1〜2割。残りの多くでは、最新の数字が決算短信や決算説明資料のPDFにしかありませんでした。
3割の企業で「語りはWeb、数字はPDFだけ」
企業単位で見ると、ずれはさらにはっきりします。
| 企業の分類 | 社数・割合 |
|---|---|
| 「語り」4項目のうち3つ以上をWebページで語っている | 約半数(48%) |
| うち、直近の売上高・利益・前期比が1つもWebになく、PDFにだけある | 933社(28%) |
| 語りと最新の数字の両方をWebページで示している | 250社(7.5%) |
「語り」の4項目は、競争優位・成長戦略・資本政策・経営の意志です。語りを充実させている企業の半数以上が、最新の数字をWebに載せていないことになります。
市場別では、このずれはプライム37%、グロース24%、スタンダード21%。語るページが充実しているプライム企業ほど、ずれが目立ちます。
実際のAIも、数字はPDFから、強みやリスクはWebから取っていた
この「ずれ」は、実際のAIの答え方にも表れています。
30社を対象に、主要なAIに「公式サイトの情報だけで」投資家の質問に答えてもらう検証を行いました。AIが正しく答えた(または1つ前の決算期の数字で答えた)1,254件について、根拠がPDFだった割合を質問ごとに集計しています(30社に絞った理由は、単純にAPI料金を抑えるためです。全社に行うとかなり膨大なコストがかかります……)。
| 質問 | PDFが根拠だった割合 |
|---|---|
| 来期の見通し | 71% |
| 直近の業績 | 69% |
| 業績変動の要因 | 62% |
| 投資ストーリー | 35% |
| リスクと対処 | 25% |
業績の数字にかかわる質問ほどPDFに頼り、リスクや投資ストーリーはWebページから答えています。項目ごとに見ると、さらにはっきりします。
- PDFから取ることが多い項目:会社計画比 80%、前期比 79%、利益予想 79%、売上予想 78%
- Webページから取ることが多い項目:複数のリスク(PDFは19%)、リスクの定量化 21%、対処の具体性 25%、競争優位 30%、成長ドライバー 31%
これは、全社調査で見た「情報がどこにあるか」と同じ形です。業績の数字はWebにある企業が約2割で、強みや成長戦略は約6割の企業でWebにありました。つまりAIは、Webページに情報があればそこから答え、PDFにしかない数字はPDFまで取りに行っていると読めます。
なお、30社での検証のため、結果は傾向として見るのが適切です。PDFを使う割合はAIによっても大きく異なり、ChatGPTは78%、Perplexityは52%、Geminiは34%でした。PDFを読みにいかないAIほど、Webにない数字には答えにくくなります。
AIはPDFも読む。それでも問題になる3つの理由
AIはPDFも読みます。私たちの検証でも、AIが公式サイトから正しく答えた回答の約半分は、PDFを根拠にしていました。
それでも、語りと数字が別の場所にあることには、次の弱さがあります。
- 語りと数字が結び付きにくい 投資家がAIに「この会社の強みは、業績にどう表れていますか?」と聞くと、強みはWebから、数字はPDFから別々に探すことになります。実際、強みを裏付ける数値をWebページで読み取れた企業は37%にとどまりました。
- 古い数字で語られやすい Webに残っている数字が、中期経営計画の発表時や前年度のものであることは珍しくありません。最新の数字がPDFにしかないと、AIがWebの古い数字を拾って答える原因になります(関連記事:「御社の『最新決算』、AIは1つ前の数字で答えているかもしれない」)。
- PDFは取り違えが起きやすい PDFの表は文字の並びが崩れやすく、どの数字がどの期のものかを取り違える原因になります。Webページの文章や表の方が、確実に読まれます。
強みを語るページが立派であるほど、数字との距離はもったいない損失になります。
うまくできている企業は、最新の数字を文章で書いている
最新の数字をWebページで、決算期とあわせて示していた企業の例です(2026年10月3日時点)。
| 企業 | ページ | 書き方 |
|---|---|---|
| ブリヂストン | 決算のページ | 「当社グループの当期の売上収益は4兆4,295億円(前期比0.01%減)」と、金額と前期比を文章で記載 |
| INPEX | 業績のページ | 「売上収益は前年同期比483億円、4.6%減の1兆4億円となりました。」と記載 |
| アドバンテスト | 財務ハイライトのページ | 売上高・営業利益と前年同期比を、表と文章の両方で記載 |
共通しているのは、決算のたびに更新されるWebページに、最新の金額・前期比・対象期間を文章で書いていることです。
明日からできる3つのこと
- 決算サマリーのWebページを1つ持ち、決算のたびに更新する 売上高・利益・前期比・会社計画比・対象期間を、表だけでなく一文でも書く。
- 社長メッセージや中期経営計画のページに、直近の実績を一言添える 例:「当期の売上収益は◯◯億円(前期比◯%増)となり、中期計画の目標に対し…」。語りと数字を同じページでつなぎます。
- Webに残っている古い数字に、対象期間を明記する 「2025年3月期の…」と書いてあれば、AIが最新の数字と取り違えにくくなります。
決算短信や説明資料をやめる必要はありません。PDFの要点を、Webページにも短く書き写すだけで、AIからの見え方は大きく変わります。
調査の方法
- 対象:東証上場企業のうち、IRサイトからWebページを5ページ以上取得できた3,321社(2026年10月3日時点)
- 方法:IRサイトを自動でたどって集めたWebページ(1社あたり最大50ページ程度)と、IRサイトからリンクされた最新の決算短信・決算説明資料を、AI(大規模言語モデル)が25の項目ごとに判定
- 検証:AIが挙げた根拠の引用が実際にページ上に存在するかをプログラムで照合し、確かめられたものだけを集計。1社につき3回判定し、項目ごとに多数決で決定
- 「Webページにある」:最新の決算期の情報がWebページで確認できたもの。「PDFにしかない」:Webページでは確認できず、最新の決算短信・決算説明資料で確認できたもの
- 「語り」と「数字」:「語り」は競争優位・成長ドライバー・資本政策・経営のコミットメントの4項目。「数字」は直近の売上高・利益・前期比
詳しい採点の方法は、IR BASEの「スコアの仕組み」をご覧ください。
語りと数字を、同じページに
強みを語るページを作り込んできた企業ほど、最新の数字を隣に置くだけで、その語りに説得力が加わります。必要なのは新しいコンテンツではなく、PDFにある数字をWebの語りにつなぐ一文です。
自社のIRサイトが、投資家の5つの質問・25の項目に対してAIからどう読まれているか。IR BASEでは、その判定と根拠をお示しできます。次の決算発表の前に、一度確かめてみてください。
自社IRサイトの診断にご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。