投資家がAIに「A社の直近の決算は、計画どおりでしたか?」と聞いたとき、AIはその文章をそのまま検索しているわけではありません。実は、AIは1つの質問を、いくつもの小さな検索に分けてから情報を探しています。この仕組みは「質問の分解(query-fan-out)」と呼ばれます。
IR BASEでは、ChatGPT・Perplexity・Geminiに上場企業30社について投資家の5つの質問をし、AIが実際に発行した検索クエリ3,954本を集計しました。AIがIR情報を「どんな言葉で」探しているのかが、はっきり見えてきました。それは、IRサイトの見出しやページの作り方を考えるうえで、そのまま手がかりになります。
Query fan-out(クエリファンアウト)の説明をしている記事は見かけますが、実際に手を動かして検証している人は正直見当たらないので、IR関係者じゃなく、SEOやAIOを向上させたい事業者にとっても有意義な内容になると思います。
97%の回答で、AIは質問を2本以上の検索に分けていた
AIが検索を行った回答は全体の99%。そして、2本以上の検索に分けていた回答は、全体の97%にのぼりました。1回の回答あたりの検索の本数は、質問とAIの組み合わせごとの平均で2.4〜7.1本です。
| 質問 | ChatGPT | Gemini | Perplexity |
|---|---|---|---|
| 直近の決算(売上高・営業利益・前期比・計画に対する進捗) | 5.7本 | 4.1本 | 4.6本 |
| 業績が変動した要因と経営陣の評価 | 4.6本 | 7.1本 | 5.5本 |
| 業績予想と前提条件、中期経営計画の目標 | 5.0本 | 6.3本 | 6.7本 |
| 主なリスク・課題と対処方針 | 2.4本 | 7.1本 | 4.4本 |
| 投資先としての魅力 | 4.5本 | 4.8本 | 6.5本 |
さらにChatGPTは、検索のあとに1回の回答あたり平均7.7ページを実際に開いて読んでいました。AIは、ひとつの質問に答えるために、思った以上に多くの場所を探しているのです。
質問ごとに、使う言葉がまったく違う
検索クエリに含まれていた言葉を、質問ごとに数えました。色が濃いほど、その言葉を含むクエリの割合が高いことを示します。

決算の数字を問う質問では、AIは「決算期」「決算短信」「四半期」という言葉で探します。
一方、リスクや投資の魅力を問う質問では、「リスク」「中期経営計画」「株主還元」といった、テーマを表す言葉で探しています。
実際のクエリの例(直近の決算についての質問。会社名は伏せています):
- 「A社 2027年3月期 第1四半期 決算 売上高 営業利益 進捗率」
- 「A社 2026年3月期 決算短信 営業収益 営業利益 会社計画」
1つの質問を、観点ごとに分けて探している
AIは質問を、内容の「観点」ごとに分けて検索していました。
| 質問 | 別々に検索していた観点 | 該当する回答の割合 |
|---|---|---|
| 直近の決算 | 「数字(売上高・営業利益)」と「計画(予想・進捗)」 | 71% |
| 業績の見通し | 「業績予想」と「中期経営計画」 | 93% |
| 投資の魅力 | 「強み・成長」と「株主還元・配当」 | 82% |
つまりAIは、「数字はどこにあるか」と「計画との比較はどこにあるか」を、それぞれ別の検索で探しに行くのです。数字だけが見つかっても、計画との比較が見つからなければ、その観点の答えは空白のままになります。
返ってくるもののイメージ(ChatGPT の場合)
例えば、ChatGPT に「丸三証券の直近の決算は?」と聞いたとき、応答はおおよそ次の形でした(分かりやすく簡略化しています)。
{
"output": [
{ "type": "web_search_call",
"action": { "type": "search",
"query": "site:marusan-sec.co.jp 8613 決算短信 2026 丸三証券 売上高 営業利益" } },
{ "type": "web_search_call",
"action": { "type": "open_page", "url": "https://www.marusan-sec.co.jp/ir/kessan/" } },
{ "type": "message",
"content": [{ "text": "直近の決算は…(回答の文章)",
"annotations": [{ "type": "url_citation", "url": "…/2027.3_1Qtanshin.pdf" }] }] }
]
}
web_search_callのsearch:AI が出した検索クエリです。open_page:AI が開いたページです。message:回答の文章と、その出典です。
返ってくるのは、提供元が公開している範囲だけです。内部でそれ以上の検索をしていても、記録に出てこなければ分かりません。 一般向けのアプリと API では、モデルや設定が違う場合があります。アプリで同じ質問をしても、同じクエリになるとは限りません。
AIは、決算期を名指しで探している
決算期を含むクエリ(1,259本)のうち、2027年(例:2027年3月期)が597本、2026年が518本。約9割が、直近の決算期を名指しで探していました。
AIは「最新の決算」を探すとき、「2027年3月期 第1四半期」のように決算期そのものを検索語に入れています。IRサイトの側にその決算期がはっきり書かれているかどうかが、見つけやすさに関わります。
普通に聞かれると、AIは御社のサイトを特別扱いしない
「公式サイトの情報だけで」と頼んだときは、検索クエリの65〜94%が site: でドメインを指定していました。一方、普通に質問したときにドメインを指定したクエリは8〜13%にとどまり、それ以外はインターネット全体を広く検索していました。
つまり、普通に質問されたとき、AIは御社のサイトを特別扱いしません。検索で見つかったページの中から、根拠を選びます(関連記事:「AIは御社の業績を、御社以外のサイトから答えている」)。だからこそ、AIが使う検索語で見つかる書き方をしておくことが大切になります。
IR担当者にとっての意味:3つのこと
AIは「決算期」「決算短信」「四半期」「進捗率」「業績予想」「中期経営計画」「リスク」「株主還元」といった言葉で、観点ごとに探しに来ます。そこから考えられるのは、次の3つです。
- ページの題名・見出し・リンクの文字に、決算期と資料名を入れる 「決算短信」だけでなく「2027年3月期 第1四半期 決算短信」と書けば、AIの検索語とそのまま一致します(関連記事:「人には見えているのに、AIには見えていない。IRサイトの『空のリンク』問題」)。
- 観点ごとに、見つけやすい場所を用意する 「最新の業績」「計画に対する進捗」「業績予想と前提条件」「中期経営計画」「リスク」「株主還元」。AIはこれらを別々に探すので、それぞれに答えている見出しやページがあると見つけやすくなります。
- 「進捗率」「計画比」を言葉として書く AIは「進捗率」という言葉で探しています。計画に対する評価を、「進捗率は○%」「計画どおり」と言葉で書いておくことが大切です(関連記事:「『計画どおりだったのか』に、AIは答えられない」)。
なお、検索で見つかったページの「どの段落」をAIが根拠に選んでいるかは、次の検証で確かめる予定です。
調査の方法
- 対象:東証上場企業30社(市場・業種・規模がばらつくように選んだ24社と、評価が分かれた6社)
- AI:ChatGPT(gpt-5.5、Web検索あり)、Perplexity(API、検索あり)、Gemini(gemini-3.8-flash、Google検索あり)。いずれもAPI経由で、2026年10月1日に実施
- 質問:投資家の5つの質問を、「普通の聞き方」と「公式サイトの情報だけを使って」の2通りで質問(ChatGPTは「公式サイトだけ」のみ)。回答は計710件
- 集計:APIの返り値に記録された、AIが発行した検索クエリ(3,954本)と、ページを開いた操作を集計。APIが返すのは各AIが公開している分だけで、記録に出てこない内部の検索もあり得ます(Geminiは、ページを開いた操作が記録に出てきません)
- 言葉の判定:クエリの文字列に特定の語(「決算短信」「進捗」「リスク」など)が含まれるかで判定。英語だけのクエリ(全体の6%)は日本語の語の判定に含めていません。英語の言い換え(forecast、risk、dividendなど)を含めて数え直しても、割合の差は3ポイント以内でした
- 注意点:結果は実施時点のもので、AIのモデルの更新で変わる可能性があります。API経由のため、一般向けのアプリとは動きが異なる場合があります
詳しい採点の方法は、IR BASEの「スコアの仕組み」をご覧ください。
AIの「探し方」に合わせて書く
投資家は1つの質問をするだけでも、AIはその裏で、決算期や資料名、観点ごとの言葉を使って何本もの検索をしています。IRサイトの見出しやリンクの文字が、その言葉と同じ形で書かれていれば、AIは御社のページを見つけやすくなります。
特別な仕組みは要りません。見出しに決算期を入れる、資料名を正確に書く、「進捗率」「計画どおり」と言葉にする。決算のたびの小さな書き方の工夫が、AIの探し方に合ったIRサイトをつくります。
IR BASEでは、自社のIRサイトが投資家の5つの質問・25の項目に対してAIからどう読まれているかを、判定と根拠でお示ししています。